職場、家庭、学校。私たちはどこにいても人と関わらずに生きていくことはなかなかできません。相手のためを思って言ったのに煙たがられた。そんな空回りの経験は誰にでもあるでしょう。中には、いつも一生懸命なのにうまくいかず、自ら生きにくさを抱え、周囲に対しても摩擦を生じている人もいるかもしれません。自分が努力さえすればうまくいく。そうならないのが人間関係の難しい所です。上司として部下のマネジメントで苦労されている方も多いでしょう。今回はアドラー心理学を紹介しながら、部下のやる気を引き出すコーチングについて考えていきます。社員の力を引き出すならロコソルへアドラー心理学とは「アドラー心理学」は数年前にブームになったこともあるので、ご存じの方も多いでしょう。知らない方も、デール・カーネギー氏の『人と動かす』『道は開ける』やスティーブン・コヴィー氏の『7つの習慣』は耳にしたことがあるのではないでしょうか。岸見一郎氏の「嫌われる勇気」はストーリー仕立てでとても分かりやすくアドラー心理学を紹介していて、私のとても好きな本です。アドラーは彼らに大きな影響を与えた人物で、アドラー心理学は一言で言うと「勇気づけの心理学」です。こう聞くとほめればいいのかと思うでしょうが、そうではありません。ほめることは、ほめる側の人間が「良い・悪い」を評価します。同じプロセスを踏んでいても、自分が期待するような「良い」結果なら賞賛し、逆の「悪い」結果の場合は相手をけなすこともあるのです。一方、勇気づけとは、「困難を克服する活力を与えること」とされています。それはどういうことなのか。アドラー心理学では「共同体感覚」を高めることに重きを置いています。この「共同体感覚」というのは、家族や職場のような共同体の中に安心した居場所がある、つながりや絆を感じているという感覚です。これは精神的な健康のバロメーターであるとされており、これを高めることができるよう、自分自身及び他者に対する「勇気づけ」を行っていきます。つまり、周囲の人たちをライバルだとみなす競争的な対人関係に代わる協力的な人間関係を志すのがアドラー心理学なのです。部下のやる気を引き出す未来志向のコーチングこの勇気づけができればいいのですが、私たちはついついこの逆の行動をとっていることもあります。困難を克服する活力を奪う勇気くじきには、代表的な3つのパターンがあります。例を挙げて考えてみましょう。あなたは上司で、自分の部下に新しい仕事を指示しました。一週間経って、部下から「仕事が進んでいない」という報告を受けます。どうして進んでいないのかを聞きますが、なんだか投げやりな態度を見せるので、カッときて「適当に仕事するやつは何をやらしてもダメだ」と言ってしまいました。1. 高すぎるハードルの設定目標のハードルが低いと達成感が味わえません。かと言って逆に高すぎるといつまでたってもうまくいかず、意欲が減退します。2. 達成できていない部分の指摘意欲が減退しているところに、「なぜできないんだ」と指摘されると、さらに不快感が増し、お互いの人間関係が悪くなります。つじつま合わせをしようと噓をついたり、逆切れしたりすることもあるかもしれません。3. 人格否定その上、「だからダメなんだ」と人間性まで否定されると、「自分は何をやっても認められない」と思うようになり、信頼関係は崩壊してしまいます。ではどうすればいいのでしょうか。私にも経験がありますが、部下からトラブルの報告を聞くと、「なんでこんなことになった?」「どうして〇〇しなかった?」とついつい原因を突き詰めて聞いてしまいますよね。アドラーはこれを原因論、過去志向の考え方だと言っています。つまり、人間の行動には原因があり、この原因がなくならない限り問題は解決しないという考え方です。ただしこれは、もっともらしい説明にはなるけど解決にはならないと言うのです。一方、「人間の行動には、その人特有の意志を伴う目的がある」と考え、自覚はなくても目的に近づこうと努力するのが人間の行動だとする未来志向の目的論を採用すると、うまく「勇気づけ」できると言います。この2つの考え方を対比させたのが下記の表です。(参考:岩井俊憲「マンガでやさしくわかるアドラー心理学」)では、先ほど挙げた例を目的論で見てみましょう。あなたは上司で、自分の部下に新しい仕事を指示しました。一週間経って、部下から「仕事が進んでいない」という報告を受けます。「どうして」は飲み込んで、「報告してくれてありがとう。どこまでできている?」と伝えます。すると、「〇〇は自分で調べられましたが、××は資料を見てもわからなくて」と返ってきました。「〇〇はできたんだね。××はあと何の資料があればできる?」と未来志向の会話を行います。すると「実は△△の方法で資料を整理しておけば効率がよくなると思ってたんです」と提案がありました。このように、目的を明確にして「勇気づけ」していけば、例え否定的な出来事だったとしても原因論のような人格否定にはつながりません。まとめここまで、アドラー心理学について書いてきました。本当はもっと色々な要素があり、ここに書いたのはその一部でしかありません。「相手が変わったら」ではなく、「自分の見方を変えること」。管理者にとっては自制心が要求あれますが、相手の成長を促すために少しずつでも実践していきたいですね。社員の力を引き出すならロコソルへこちらの関連記事もご覧ください。「マネジメントは難しい。気を遣っているのになぜ部下のモチベーションが下がるのか」